労務の現場を回っていると、経営者から必ず一度は聞く言葉があります。「うちにハラスメントはないですよ」。私はこの言葉を聞くたび、静かに身構えます。経験上、そう言い切る会社ほど、通報が”上がらない”構造を抱えているからです。
ハラスメントの通報がゼロの会社には、2種類あります。本当に問題がない会社と、問題が見えていないだけの会社。そして後者のほうが、圧倒的に多い。
ある製造業の会社で、窓口を外部に切り替えた途端、初月に3件の通報が届いたことがあります。内容はいずれも数年前から続いていたもの。社内窓口の時代には、1件も上がっていませんでした。窓口の担当者が人事部長——通報したい相手の直属の上長だったのです。
通報がないことは、健全さの証明ではない。「言える場所がない」ことの証明かもしれない。
通報が上がらない構造には共通点があります。①窓口が”身内”である ②通報後に何が起きるか誰も知らない ③過去に通報した人がどうなったか、悪い噂だけが残っている。この3つです。
逆に言えば、外部性のある窓口・対応フローの開示・通報者保護の徹底という3点を整えるだけで、通報は「怖いもの」から「使える制度」に変わります。私が現場でまず提案するのは、大がかりなシステムではなく、この3点の見直しです。
「うちにハラスメントはない」——その言葉を、データと仕組みで裏づけられる会社にすること。それが、私たち社労士の仕事だと思っています。